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萬書付帖 since 12.09.2007
February / 23 Sun 13:52 ×
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April / 14 Mon 00:31 ×

 日本の日曜日といえば競馬である。もう、全国津々浦々まで競馬である。疑問の余地もなく競馬なのである。
 しかしながら、なぜか最近お金のない私はそんな全国的な行事である競馬に最近あまり行けなかった。
 今日は桜花賞。これは行かざるを得ないのではないかと考えながら、TVで国民的テレビ番組であるところの競馬中継を見ていた。桜花賞の参考レースやら調教の様子を見ながら分析していたところ、フィリーズレビューの三着馬の直線での躍動的な腿の動きに魅了された。一瞬ではあったが、その加速のすばらしさは目を見張るものがあった。
 その馬こそレジネッタであった。桜花賞のオッズを確認すると単勝33倍(昼時点)という状況。これはねらい目である。馬体重もマイナス4。さらに締まった感がある。これは行ける、と思い、取り急ぎ本を鞄に突っ込んで場外馬券売り場へ向かった。レースまで三十分。ぎりぎりの時間である。
 電車の中で一昨日購入した東欧文学に関する論文集を読みながら、時間を気にする。混雑していたら買えないかもしれない。最近の桜花賞は堅くおさまっていた。新聞にも人気馬有利の記事が踊る。今回も堅くおさまるだろうというのがジャーナリズムの言。しかし、このレースは荒れる。自信はある。伏兵による最後の追い込み。阪神の長い直線、あの脚力があれば順当に残るはずの人気馬をかわすことができるだろう。
 財布から札を三枚取り出し、ワイシャツのポケットに突っ込む。この三枚くらいしか自由にできる金はない。
 オッズから配当金を概算する。新宿は200円以上の購入しかできないから、200~500円での馬連6頭流しになるだろう。200円で買うとすると1番人気との馬連で50倍くらい。単勝30倍台で馬連ならば6番人気ならば200~300倍はつくだろう。小さく見積もって1万円。大きく見積もって4万円の配当。足りない。
 三連複で一番人気との二頭軸で買えば配当はもう少しあがる。一番人気はこのところ3着までには来るから信頼度も高い。考えた末、馬連、三連複に分けて購入することに決めた。
 皇国の興亡、この一戦にあり! ニイタカヤマノボレ
 ウィンズの階段を昇る。
 時間を確認する。あと10分。いつもぎりぎりだ。何かやらなければいけないことがあるときはいつだってぎりぎりなものだ。
 3階は混み合っている。人を押しのけて最新オッズの確認。単勝の倍率は40倍。ひとり下卑た笑いを浮かべる。同時に、不安になる。
 日本の競馬ではよく買われる馬券ほどオッズが下がる。あまりにも多く買われたものは1倍になってしまうことだってある。当たっても買った金額が戻ってくるだけということだ。逆にほとんど買われていない場合は100円で買ったものが1千万円になることだってある。
 多く買われた馬券を買うのは気が楽である。当たっても外れても場外馬券売り場の空気と連動した結果がめぐってくる。みんなと一緒の行為の結果はみんなと一緒のものになる。私はめったにそんな買い方はしない。勝ちにこだわって買っても面白くない。ちょっとした引っ掛かりを見つけ、自ら構築した理論によって証左された結果としての馬券でなければ面白くない。けれど、こういう買い方は常に、支持されていない馬を買うことの不安がつきまとう。
 やはり人気馬が来ることのほうが多いのだし、ひねくれた買い方をしてしこたま負けた夕方は電柱だって蹴り飛ばす。だが、やめられないね。
 5分前に馬券を買う。一旦場外の外に出て煙草を呑みながら、湿気を感じ空を仰ぎ見る。直前に雨が降らなければいいが……。差し馬はすべる馬場になったら不利なのだ。
 中に戻り、液晶テレビを見守る。馬場入場が行われている。雁首並べてテレビに食い入るきれいとは言いがたい身なりの人々。その一人である自分自身に自嘲する。
 そして、春のレースが始まる。
 今読んでいる本の中にポーランドの詩人ユリアン・トゥヴァムの「春」が少しだけ載っている。『「今日は群集をたたえる日/くろやまの人だかりと/都市と」』という冒頭で始まる詩らしい。今日、この瞬間こそがそれではないか? すばらしい景色じゃないか!
 レースは順調に始まり、思い通りの展開。我がレジネッタは後方のまま最後の直線。ゆっくりと始動。躍動する筋肉がそこで動き出す。すっと持ち出した鞍上小牧太。中団にあがる。加速する。一気に他馬を追い抜き、ゴール前、抜け出した。一着。
 描いていたシナリオは正当にそこに描き出されたかに思えた。
 12番人気、馬印に何の印もないレジネッタは桜花賞を勝った。
 場内は静まり返る。大穴だった。隣の見ず知らずの人と話を始める。
「二着は? 二着は何だ?」
 1着は当てた。当てたのだが、2着がおかしい。2着にも穴馬が入っているように思えた。買っていない穴馬だ。
 隣の階段に一段上がってテレビの一部始終を見られただろう50代後半の町工場で働いていそうなおじさんに確認する。エフティマイアだ。
「新潟二歳ステークスのエフティマイア!?」
 買ってない。
「大荒れだよ、ほら、印なんぞついてねえ」
 ぶっきらぼうに言いながら、新聞に1~3着まで書き記すおじさん。
「レジネッタかよ」
「レジネッタなら買いましたよ」
「ほう」
「でも、下がまずいですね。エフティマイアか」
「レジネッタ買ったのか?」
「前走良かったんで。でも、結局はずれですよ」
 おじさんは苦笑して、私は軽く手を振って外へ向かった。

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