ザハリア・スタンクはルーマニアの作家。1902年、ルーマニア南部サルチアに生まれる。ジャーナリスト、詩人、作家。ルーマニア作家協会会長も務める。1974年没。邦訳では他に『はだしのダリエ』がある。
第二次世界大戦に起きたロマ(ロム)人のジェノサイドを題材とした作品。ナチスの支配下、ユダヤ民族同様迫害・殺戮されてきたロマの人々を架空のシャトラ(馬車で放浪するロマ人の単位)を中心に描く。作中では30台もの馬車を従えるヒム族長のシャトラが、荒野に遺棄される。
ロマにはついこの間まで発言力を持つ団体がなく、ユダヤ民族のように後押ししてくれる国家もないためにこの事実はあまり世の中には知られていない。私もこの本を読むまでは、ナチスドイツのホロコーストはもっぱらユダヤ民族と政治犯に行われていたと思っていた。
ところでロマとは、言うまでもなく、日本ではジプシーと呼ばれる民族。インドに起源を持つと言われ、中世よりヨーロッパに現れる漂白の民です。数年前の新聞でどうやらロマと呼ぶべきであるというようなことが書かれていたと思うので、ここではロマとして通した。
あまり話の内容が分かってしまうようなことを書きたくない。これから読みたいと思う人の邪魔になってはもうしわけがない。なので雰囲気だけ。話としてはただただ陰惨です。暗くなります。ルスティクの『少女カテジナのための祈り』をすでに読んでいる人は、ユダヤ人がロマ人に変わったと思えば間違いありません。
しかし、『少女カテジナのための祈り』とは違い、ちょっと文明批判めいたところも内包しております。漂白するロマ人の生活の様子なんかも分かるのです。あとがきを読むと今や馬車でヨーロッパ各地を流れ流れてゆくロマ人は消滅しているのでは……と。非常に残念です。
訳者の住谷春也は他にミルチャ・エリアーデの訳書多数。『エリアーデ幻想小説全集』の編者もやっている。